【読書メモ】自治基本条例のつくり方

松下啓一/著 ISBN 978-4-324-08156-3

1 総論
●自治基本条例の意義
・定義;自治体≠役所ではなく、自治体=市民+議会+役所である
・自治基本条例とは「まちを元気にするための理念、制度、仕組を規定」したもの
  ①まちづくり(自治)の基本理念、原則
  ②市民が主体(権利や責務が規定)
  ③執行部、議会が自治のために頑張る規定
  ④市民や団体がまちづくりにあたって元気に活動できる規定
・自治基本条例とまちづくり条例
厳密には違う。自治基本条例とは自治体の憲法、まちづくり条例とは前条例に比較すると実践的・現実的。ただし本書では同等に扱う。
ニセコでは「まちづくりは自治そのものと言い換えてよい」としている。 
●自治基本条例の必要性
・今やっていることを明文化するため、難易度は高くない。おそらく議決も意外と楽。
・だが、人と税金を使うのは、他の公務と同等。自治基本条例だからこそ、しっかり必要性を議論する必要がある。
①地方分権=自前の自治システムの必要性
・2000年の分権改革(第3の改革)以降、国県市町村の関係は上下関係から対等関係へ。
※今までは上からの押し付けだったが、今後は住民が主体。まず住民が何ができるのか?という今までとは逆の方向で考える補完関係の構築が必要。  
②限られた資源を有効に使うシステムの必要
ア;税収の面では、多数派である団塊世代が「税金を払う立場から税金の消費者へ」変わる
イ;それを支える子どもたちは、1.26の合計特殊出生率ではとても間に合わず、2005年から2055年で1.2億人から8,000万人へ減少。このマイナス4,000万人とは、東京都3個分の人口と同様。
・今までの3/4の費用で現状を維持しながら、更に増える社会保障などの経費を見ることになる、という試算も出ている
・この点を如何にリアルに感じられるか?伝えられるか?がカギ
「まちが元気であるために、何が重要で、そのためには自分たちは何をすべきなのか、ルール化する必要がある」

≪必要性の論点≫

①「地方自治法があるのだから」
・地方自治法は、自治体の組織や運営について非常に詳細に書かれているが、主体であるはずの市民の活動についての記述がほとんどない
※地方自治法では、主体である市民がどのようにまちづくりを行うことができるのか?こういうことが明記されていなければならない。
②「あまりに当たり前ではないか」
・当たり前の事なのだが、それを実行することは難しい。だからこそきちんと明文化しておく必要がある。
※また明文化することにより、時代が変わろうが、首長が変わろうが、自分たちのまちらしさや、誇りを市民の手で引き継いでいくことができる
③「基本構想(総合計画)があるではないか」
・総合計画はまちづくりの内容、自治基本条例はまちのつくり方を規定している。例えばニセコは総合計画の内容について、自治基本条例の内容に合わせるように策定することと規定されている。
・総合計画の中で位置づけられた課題に対して、どう自治の関係者(市民、議会、行政など)が関わるか、またそのための権利や義務を規定するのが自治基本条例である。
※また今度の自治法改正では、基本構想(総合計画)策定根拠であった条文が削除。だからこそ、総合計画の策定根拠をこの自治基本条例の中で明文化するくらいの気持ちが必要なのではないか?
④「市民憲章があるではないか」
・確かに元気なまちをつくるための主体は市民であるため憲章が持つ意味は大きい。が、憲章はその役割や権利・責務が具体的ではない。本当にまちづくりを動かしていくためには、市民憲章では抽象的すぎる。
⑤「市民からの盛り上がりを待ってからでよいのではないか」
・内容は当たり前、だからこそ自治基本条例を策定する過程で「自治とは何か?」を考え、気づいてもらう必要がある。そのように重要な条例だからこそ、待つことはできない。策定には1~2年が必要。その中で、市民の方々は盛り上がってくる。
⑥「簡単な条文でいいのではないか」
・共有されていれば少なくてもいい、というがそうだろうか?自治の姿やルールを明文化し共有することを考えると、どうしても条分数は多目になる。
⑦「条例でなくてもいいのでは」
政治的、社会的側面で
ア)条例づくりには多くの利害関係者が関わる。このことで自治を考えるキッカケになる。
イ)条例にした場合、予算・人がつきやすい
ウ)条例には広報力がある
→実効力が強くなる
※注意する事は自治基本条例を制定した自治体が先進ではない。これから自分たちのまちをこうしたい!というまちが自治基本条例を創る。

●自治基本条例の理論

◆信託のかたち論
・ジョンロックの社会契約論をベースにした信託論
・作る時は自治基本条例の意義について、熱く住民が語るくらいのエネルギーを使うべし!
◆新しい公共論 
・前述の信託論は、公私二元論であり二項対立的な考え方。現在はNPOのような組織も重要な公共主体の一つ。
・政府が全国画一的に行政サービスを行う手法はナショナルミニマム実現という点では効率的だが、今日のある意味豊かな時代では市民のニーズをうまく受け止めることが出来ない。
・市民によって優先度は千差万別、こうした一人一人の想いはこれまでの政府一任方式ではうまく伝達できない。(政府の能力の限界)
◆新しい政府への誤解
・新しい政府≠小さな政府。確かに役所の役割は小さくなるが、むしろ公共領域は拡大する。
・民営化は単なる手段の一部。民営化は目的ではなく「市民が幸せか?」が重要。
・新しい公共に関して重要な点は次の2つ
1)旧領域の担い手を市民化すること
※高橋寛治さんの言葉を借りるなら「公の考え方を持った人々」をどれだけ増やすことができるのか
2)新しい公共領域における公共ルールの導入
行政は公共領域の活動において公開や住民参加などをルール化しているが、これからは新しい公共領域で活躍するNPOや自治組織も当然「公共の担い手」という点で一定のルールを適応することは必要になる。
・まちをつくる道具となるように→ハンディな憲法のイメージ。目指すべきはこの憲法を意識せずに、身につけるようにすること。

●自治基本条例のトレンド

[1]全体の動向
小さい町に向いている
[2]内容の傾向
◆政策テーマ型から自治の基本型へ
ア:自治(まちづくり)の基本理念や基本原則が書かれていること
イ:市民が自治の主体として位置づけられていること
ウ:役所や議会が自治のために頑張る規定が定められていること
エ:市民や市民活動団体が元気で活動することができる規定が定められていること
◆サブセット・フルセット→下記の全部を持てばフル、一部ならサブ。フルが望ましい。
①自治の基本理念
②自治の主体としての市民
③行政、議会、の組織運営活動に関する基本事項
④市民、市民団体活動に関する事項
◆議会基本条例の影響
・栗山町の動き、住民、行政と議会条例の住み分けが進む可能性。
・ただし、基本はこの3者は同じ自治の担い手であるため、1つの基本ルールを制定したほうが望ましい
◆理念型から具体的規定型へ
・ニセコは、主体が住民、住民参加を基本理念として、これを具現化するために町民の権利や数々の手続きを定めている。
◆細分化・詳細化の流れ
・明確になるぶん、他の規定とのバランスや読みやすさが減る、という両面を持っている
◆ニセコ呪縛
・後発条例が、ニセコスタイルに縛られすぎ。
[3]市民参加をめぐって
◆市民協働立法のイニシアティブによる3つのパターン
①行政主導型(首長のリーダーシップ、当町)
②市民主導型(多摩市)
③議会主導型(飯田市)
◆市民の参加
実質参加Ⅱのステージが望ましい
◆公募型市民参加の2つの注意点
①参加市民の代表性・・・中間説明会や意見交換会で補完、これをいかに回数こなせるか?がカギ
②議論の変遷
ア)2~3ヶ月;条例とは関係ない苦情・要望・陳情が噴出。信頼関係・仲間意識を作る大事な時期。→行政職員の力量が問われる時期
イ)学習深化期間;市民間で「苦情を言うために集まったのか?」と考え議論が起きる時期
ウ)発展期;イの成果から多様なアイディアが出され、「これを条例に入れられないか?」など一番楽しい時期
エ)調整期;市民間の対立が起きる時期。例えば「義務派VS責務派」など。
オ)合意形成期;市民間で選択・決定しなければならない最も市民の力量が問われる時期

2 自治基本条例の内容――論点と参考となる条例

●対象となる条例・条例体系
・前文;遠軽町、篠山市
・目的;越前町、富士見市、愛川町、伊賀市、川崎市
・最高法規性;飯田市
・協働のまちづくり;文京区(狭義の協働)
※準備・選定・実施・評価の段階での適切な協働の手法が重要。「信頼」がキーワード。
・情報公開・説明責任・・・市民による評価、チェックシステムの導入
NPO法の第28・29条が参考になる。またこれは行政のみに適応するのではなく、市民団体も公共の担い手として同じルールが適応される。
・公共の担い手;地域自治について定義すること
※そもそも主役は住民。その活動について支援するという仕組をルール化する必要がある(都市内分権など)
※このため地区計画や担当職員のあり方を見直す必要がある
※地縁組織はともかく、志縁組織まで当町の場合は定義するかどうか?
・連携について
※友好都市、災害協定都市、広域連合、北部総合事務組合、定住自立圏などが当町の場合では当てはまる
→交流により、町民が誇り、自信を持つことが必要
・実効性の確保
情報公開、行政評価
見直し期間(首長の任期に併せる)
評価のための市民委員会の設置
ただし議会で良いのか?市民委員会までも必要なのか?という議論は必要
◆新権利の権利性は?

「権利」としたことで行政はこの権利性の向上のために動かなくてはならない。議案するまでに内部で大きな議論と覚悟・決意が必要。
◆責務か義務か?
・まちづくりを法令の遵守や納税と同様に義務化するのは厳しいか?
・市民の主体性に依拠した責務とすることが望ましいか?

3 自治基本条例のつくり方
●基本事項と3つの原則
◆基本事項
・みんなの条例であること野球と同じ。昔は内野だけでできた時代から外野もプレイヤーへ。だからこそ統一ルールが必要。
 
◆3つの原則
原則1)みんなが動けるルールであること
・条例制定によって自治の本旨再定義し、公共の担い手の役割や立ち位置を再構築するもの
・まちの内実を高めるもの→都市名ブランドの高まり
・自治基本条例の2つの要素
①自治体を「市民の自治体」とするためのルール制定
②市民コミュニティが元気になるためのルール制定→全国的にこちらの内容が不足 
原則2)自治の当事者に十分身に付いていること
①条例づくり≠条文づくり
②既得権や前例を覆す作業、これこそが本当の条例づくり
市民が作れば、みんなの条例なわけではない
単に公募の委員が参加しているという「参加の自由」ではなく、いかに公共の担い手や関係者に働きかけを行ったか?が重要
・興味が無い人も関心を持つ仕組づくり
WEB、パブコメなどは当たり前。地道に広報誌に過程や基礎情報を掲載、節目には全戸配布、説明会も地区毎だけではなく、職域や団体など。
議会を巻き込み(キーマンは誰だ?)、時間のかけ方(最低でも1年、ただし間延びすると萎えてしまう。このバランスが重要)も重要。 
原則3)実効性が十分担保されて、動く条例となること
※現状の行政評価システムとの連動や役割分担も視野に入れて

●10のポイント

01:みんなの思いをひとつにまとめるものになっているか?
多くの人が関わることが重要。前文は、まちの事を知らないと書けない。いっそ思い切って住民に委ねるのはどうか?
02:まちづくりの理念が明確になっているか?(どのようにまちをつくっていくかが表明されているか)
・政策分野ごとの事柄は思い切って基本計画へ
・このポイントを明確にする3つのヒント
①ソーシャルキャピタル、②地域力、③まちの価値
03:自治の主体として市民の権利と責務が規定されているか
・市民≠お客様、市民=まちづくりの主体
・参加選択の権利と同様に責務も重要
・市民がまちづくりに参入したくなるような工夫が必要
04:市民が参加・選択・決定できる仕組が規定されているか?
・市民が政治に関心が持てない理由は
ア;市民にとって自治やまちづくりが自分たちのことと感じることができない
イ;参加・協働しても結局何も変わらないという諦め
ウ;自治やまちづくりに参加する議会や仕組の乏しさ
・仕組が大切(最も影響力があるのは説明責任)。
・自治基本条例の良し悪しを「住民投票の有無」と「対象のハードルの低さ(低年齢や外国人など)」で評価する傾向があるが間違い。
05:市民のために働く役所が明確に示されているか?
・当たり前のことだが難しい。
・旧い公共の市民化が急務
・市民を元気にするリーダーシップ
・職員の研鑽・努力が必要
06:市民のために働く議会が明確に示されているか?
・執行機関の監視役から、政策立案・形成に携わる議会へ
・議会と執行部は同業他社・ライバルの関係と思うべし
07:公共主体としての市民活動団体が元気で、活動できる制度や仕組があるか
・自治組織、NPO、任意団体などが、今後は重要な公共の(新しい担い手)となる
・ただし、公共ルール(情報公開、説明責任)に準拠する必要はある
08:まちづくりの最高ルールとしての決まりや仕組があるか?
・最高規範、既存条例等は整合性をはかるため改正する必要もある
・これは今までの自治の関係者の役割・権益・全業務等をリセットし再構築することを意味する
09:他自治体や他住民との連携
・定住対策に交流市民は重要(気づきや誇りとなるきっかけを与えてくれる)
・経済優先という社会経済システムが現在の地方分権の進行を阻害する大きな一因。
・これを打破するためにも地方と国、市民と事業者の連携が重要となる
10:生きたルールとしてのフォローの仕組が規定されている
・条例は動いて初めて意味を持つ
※PDCAのサイクルで動いていくような仕組づくりが必要


◆今日のBOOK◆



0 件のコメント:

Related Posts Plugin for WordPress, Blogger...

ZenBack