【読書メモ】自治基本条例の理論と方法


 高森町でも自治基本条例の策定に向けて今年度より動き始めました。その中で、自治基本条例について数冊、本を購入しました。

 どこかで「その分野についてある程度の知識を得るには、10冊程度読むべき」ということを聞いたことがあります。まだまだ、足りないですが・・・
 今回、読み終えた本は下記の本です。自治基本条例に興味がある人、自治基本条例の市民検討委員などになられた方、そして仕事で担当になった人は読むべきです。


読書メモを、私見を交えながら、以下に記します。

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1994年、北海道先駆自治体研究会にて、松下圭一教授が「自治体基本条例」という言葉を使う。
・日本国憲法の第8章地方自治を踏まえて、自治体レベルの基本法として策定されていくことを予想
・長期・総合の自治体計画の基本となるとともに、国法の運用を含む政策法務の自治体基準となる

第1章 自治基本条例の系譜
自治基本条例の今日的意味
1)市民主権の民主的な自治体運営と質の高い政策活動を推進するため
2)条例によって必要な理念、理念を具現する基幹的な制度、制度を動かす原則を総合的・体系的に整備
3)この条例に当該自治体の最高規範ないし最高条例としての地位を与えたもの




1 川崎市の都市憲章原案
A 憲章型(川崎市 都市憲章)
2つの特徴
①政策ビジョンの条例化
②公開と参加、最高性と改正、という先駆性
・地方自治法は自治体の基幹的な制度を画一的に先占している。これが自治体が市民主権にたって独自の制度を構想し制度化する妨げになっている。
・地方自治法には、自治体を健全に運営するための日常的な制度装置をほとんど規定していない。そこで各自治体は独自に情報公開・市民参加・総合計画・政策評価などのさまざまな制度を開発してきた。自治基本条例の制定は、この蓄積の上にたっている。


2 「政策」と「運営」の分化
・政策的な面は、分野別の政策(基本)条例の流れへ。
・運営的な面は、分権・自治改革との流れとともに、自治体の自己責任・自己決定のための諸制度の整備の方向へ→情報公開条例、市民参加条例、住民投票条例などの進展と共に、それらを総合化しようとする発想へ。

3 授権型と自治型の条例
・自治体を市民の政府として健全に運営するために必要な制度を総合的に整備する、それが自治基本条例
・自治基本法研究会※自治労と(財)地方自治総合研究所が共同で組織が作成した「地方自治基本法案」。地方自治法の上に当法を制定して、基本法の規定により自治体へ授権する、という考え方。
・今日、この法案は採用されておらず、また私たちが考えるべき自治基本条例は、基本法によるお墨付きの授権型ではなく、憲法代94条が規定する自治体の条例制定権を直接行使する「自治型」と特徴づけることができる。

4 行政型と総合型の条例
・自治の主体は政治上の主体である市民(法人、団体などを含む)、制度上の主体である職員、首長、議員の4者。
・自治基本条例は、自治の主体という点では、これら4者の役割や相互関係を自治体運営という観点からルール化するもの。
・狭義では議会条例がないと自治基本条例とはせず「行政基本条例」と言える。ただし、理念・制度・原則が具体的に備わっていれば大きな意義がある。
・自治体は国と違って二元代表制であり、国政に比べ首長の力は大きい。これを市民自治の観点からルール化した行政基本条例を制定する意義は極めて大きい。
・活用に耐えない条例を策定しないためにも、これから自治基本条例を策定する自治体は戦略的に制定までの道のりを構想する必要がある
1)個別の制度改革を先行させて自治基本条例に組み込まれる制度の水準を高める
2)上記個別制度の改革が相当程度進んだ段階で、具体性のある自治基本条例を制定する

①行政に比べて議会改革の進行が進まない場合は、行政基本条例を先行制定
②行政、議会の改革がともに進んだ段階で自治基本条例を制定する
・演繹法・・・あるべき条例の理念と全体像を想定しながら、必要な個別制度の改革を着実に積み重ねていく
・帰納法・・・実行した個別改革を通して想定している自治基本条例の理念、内容、効用などを検証し、これをより確かなものにしていく

第2章 自治体はどう運営されているか
1 法律型の自治体運営
・「わが町はどのようなルールで運営されているか?」という問い。答えられるか?
・憲法では首長も議会も市民の直接選挙で選ばれ、自治体には立法権(条例制定権など)や行政権がある。
・首長は補助組織として職員を置く。首長は「代表」、職員は「代行」と表現される。
・ここに「お任せ民主主義」「観客民主主義」と呼ばれる危険性を含んでいる。
・憲法や地方自治法に書いてることだけで自治体を運営すると「お任せ民主主義」「観客民主主義」しかできない。情報公開や市民参加のことは書いていない。請願、直接請求、住民訴訟はあるが、とてもハードルが高く日常的には使えない。しかも直接請求が必ずしも最終決定ではない。あとは首長・議会でお願いね、という制度。

2 自治型の自治体運営
・昨今の自治基本条例制定への動きは、今までの各自治体が行ってきた、情報公開、市民参加、総合計画、政策評価などの積み重ねの成果。法律で与えられたものではなく、地方自治の歴史の中で、各地の先駆的自治体が独力で開発、普及してきたもの。これが自治型の枠組みの重きを成している。


3 自治基本条例の今日的要件
・個別の制度では、北海道情報公開条例、川崎市のオンブズマン条例、総合計画では多治見市など。
・これからは「一品料理からフルコースの料理へ」。上記の素晴らしい制度が総合化され体系化されたものが自治基本条例。そのためにはアンテナを高くし、キャッチしたものをフルコース化するデザイン力が重要。
・自治基本条例は政策基本条例ではない。政策は時代によっても人によっても変わる。だからこそ、よい政策を生み出すための政策活動のルールを整備する(自治基本条例)ことが必要。
・自治基本条例の3つの定義①自治体を運営するための「理念」②その理念を具体化する「制度」③その制度を具体的に動かすための「原則」
・私案ではコミュニティ項目は入っていない。自治基本条例は市民が自治体という権力をコントロールするのだから、市民領域であるコミュニティを扱うのは次元が違う問題、という理由。
・市民と自治体の関係は、「選挙」「信託」「責任」「批判」という緊張で成り立っているべき。
・協働とは同じ立場同士では用いられるが行政と市民で協働という言葉を使うときは注意が必要。(行政とは、権力を持つ側であるため。決して同じ立場ではない。)

第3章 自治基本条例の今日的背景
・大まかな背景①分権時代の自治体運営における自己決定・自己責任の問題②やせ細る政策資源と増大する市民ニーズの問題③補完性原理による自治体の再構築
・国と自治体の関係は「上下主従」から「対等・協力」へ。自治体は今までのように国や国の制度の責任にはできない。自分たちの自己決定・自己責任が問われる。→政策法務の重要性
・順番待ち民主主義の終焉。いままでABCと三つ出されたものは1度にはできなくても、2年目、3年目と実現ができた。これからは1つやるには、あとの2つはできない、という時代。これらをどう市民と合意できるか。
・中央集権時代の終焉→政府の三分化。政府は1国単位から、国際機構、国、自治体の3つへ。国際分権(1国で扱えない諸問題が国連をはじめとする国際機構へ)、地方分権(地域固有の資源を大切にしなければ本当の実感される豊かさは実現しない)、そして自治基本条例の制定。
・この3つのレベルの政府の関係を律するのが「補完性の原理」。諸問題を市民や市民同士で解決、無理ならば市町村、県、国、そして国際機関へと問題のレベルが移動。このように市民から発して上昇型の政府間関係をつくる考え方が補完性の原理。

第4章 自治基本条例の意義
1 全体としての意義
・行政を安定飛行させるために、情報公開・市民参加・総合計画などの運営の制度や仕組みを整え公表する、という意義がある。
2 各主体にとっての意義
・首長にとって
・市民にとって。制度の情報公開、これにより町政を評価、監視、意見を述べたりできる。これにより町政への信頼が高まり、市民の参加意欲も高まる。
・議会にとって。市政を争点化することが大きな議会の役割。行政を監視する際の大きな武器になる。
・職員にとって。日ごろ行う行政活動や政策活動が原則ルール化。条例に書かれるほとんどが職員の仕事に関わってくる。(マネジメントシートの作成などが条例化される、ということ)自治基本条例の制定は職員の仕事の質を変える。よいまちづくりへの最短距離は職員の政策能力の向上。

第5章 生ける基本条例の六原則
・自治基本条例をつくる意味は、①市民主権の自治体運営を実現すること②それを通じてレベルの高い政策活動が行えるようにすること
・生ける条例とするための六原則
(1)総合性の原則
必要な制度項目を最大限に網羅すること
(2)水準性の原則
高位平準化を狙うこと。先駆自治体を参考にしながら自分の自治体の制度の現状を自己点検すること。企業と違って先駆自治体の営為は無料で自由に参考にできる。それを活用するときにはより優れた制度に育てて恩返しをする。
(3)具体性の原則
「市民参加の市政を進めます」ではなく、「どのような場面において、どのような事柄について、どのように市民参加の手法をとるのか?」まで明確に。政策評価についても同様。
(4)相乗性の原則
「情報なくして参加なし」(情報公開と市民参加)、「計画なくして予算なし」(総合計画と予算)、「参加なくして計画無し」(市民参加と総合計画)、「情報なくして評価なし」(情報公開と政策評価)、「計画なくして評価なし」(総合計画と政策評価)。このように各制度が相乗効果を表してこそ意味がある。そういう自治基本条例が必要。
(5)関連性の原則
どこまで具体的に書くか?という程度の問題が発生。あまりにも細かいと膨大なボリュームに。自治基本条例に書ききれない細かいルールは、関連条例・関連制度において整備する。
(6)最高性の原則
自治基本条例は自治体の最高規範。最高規範とは①この条例に違反するその他の条例や規則は制定してはいけない②国の法律や制度を解釈する際の最高基準、という意味。
・今後、各自治体は条例制定などの自治立法を積極的に行うこと(立法法務)、憲法や法律を自主解釈して運用すること(運用法務)、そして、訴訟法務、改革法務、支援法務の5つが自治体法務。
・今までの行政法学で考えると、自治基本条例に最高規範を明記することを躊躇してしまう。
・違反ということを条例間の上下関係で考えるのではなく、違反しないように条例間を調整するという調整法務の原理、ないしは立法法務の原理で考える。
・法律と条例の関係については、地方分権一括法により国と自治体が対等・協力の関係に変化した今日、なぜ法律と条例の関係は上下の認識のままでよいのか?よいはずがない。国と自治体が対等なのですから、当然の帰結として自治体条例と法律は横並び。
・憲法には条例は法律の範囲内において制定する、とあるが、この範囲内は法律と条例の調整原理と考えるべき。
・また最高規範から考えると、明記するのみならず、市民投票による承認手続きによって強化。

第6章 条例制定過程の四課題
(1)現行制度の点検
  ①活用
  ②修正
  ③廃止
  ④新設
 現行制度の現状を把握していく中で、活用できるもの・修正して使えるものが多ければ、比較的自治基本条例は策定しやすい、修正・廃止・新設が多くなれば、制定までには個別制度をある程度整えてから自治基本条例を考えた方がよい。
(2)効果的な接近法
①総合計画先行型
・総合計画を策定する中で、自治基本条例と接近させる手法は有効。理由は総合計画はほかの諸制度と連動している、総合計画の関連制度は自治基本条例の基本的な制度項目と同じ。
・先進事例は多治見市。総合計画が他の諸制度と連動し、その総合計画の関連制度はみな自治基本条例の基本的な制度項目と同じ。
・今までの基本構想・基本計画・実施計画という三段階計画は計画手法としては完全に破綻。
②参加条例先行型
・これも上記と同様に、総合計画や条例制定、予算編成、政策評価などの重要事項にかかる市民投票や市民委員会の設置などの市民参加条例を制定すれば、ある程度の具体的な参加の場面や参加の方式を想定できる、という考え方。
・先進事例は北海道芽室町。
(3)四者参加の推進
①市民参加
・市民参加と言えば町長から委嘱された市民のみなさんが一生懸命頑張るイメージ。それも市民参加だが重要なのは、市民のみなさんが素案づくりの過程をリードして、市民参加、職員参加、首長参加、議員参加を行うこと。
③首長参加
④議員参加
・まず首長が首長の仕事をしていくうえでどういう基本条例であってもらいたいのか、それを述べることが重要。そうすると議員も参加するようになる。
②職員参加
・一番、制度や町の状況を詳しく知っているのは職員。そして条例制定によって一番影響を受けるのも職員。職員個人でもグループでも、どんどん提案を、ということを市民委員会から公式に呼びかけることが重要。
(4)検討時間の確保
・じっくり時間をかけるべき。今までのことをじっくりやればどうしても時間がかかる。自治基本条例策定と同時に既存制度や条例の現状把握も必要。
・全体を想定しながら個別制度を点検する。またその逆もあり。全体と個別、帰納と演繹、そのような2つの方向から進めれば、効果的に自治基本条例に到達できるのではないか?

おわりに
・自治体改革の歴史という時間軸からも自治基本条例の意義を考える。
・戦後の地方自治は、中央集権という制度の中でも自治体と市民は所与の仕組みを活用・修正し地方自治を発展させてきた。→「制度の運動化」
・制度を活用する上で矛盾が生まれ、今度は制度自体を変えようという運動になり、新制度が作られる→「運動の制度化」
民主主義・地方自治とは、このように運動化→制度化→運動化→制度化という終わり無き螺旋の繰り返しを行い高度化していく
・自治基本条例は「運動の制度化」。自治基本条例は「生ける基本条例」。活用しながら次なる改善の課題を発見していく。「制度の運動化」へ。この流れを「運動化と制度化の無窮動」(篠原一東大名誉教授から頂いた言葉)と呼ぶ。これこそが民主主義。

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