最近、別の市町村で議員をやっている友人から、地区担当職員制度について聞かれたので、ちょっとおさらい。
定義
地域担当職員制度については、川口らは「自治体職員が特定の地域を担当し、地域の人々と同じ目線で集落活動をサポートするような制度である」と定義していますが、ここではもう少し狭義に捉え、町内会や自治会と呼ばれる自治組織ごとに職員を配置し、地域ごとの計画の策定支援を始め、自治組織との連絡調整や相談窓口、また事業実施の際の要員支援などを行う制度と定義します。
(川口 et al., 2010, p. 263)
歴史:地域担当職員制度発現の3つの段階
地域担当職員制度の発現を時系列でみると、大きく3つの波があることがわかります。最初は高度経済成長期である1960年代末に始まり、2つ目は地域担当職員制度が全国で本格的に展開し始める2000年ごろ、そして3つ目の波は2007年〜2008年頃です。
1960年代〜
地域担当職員制度の嚆矢と目されるのは千葉県習志野市(S43)と岩手県藤沢町(S49)であり、この2つの市町において共通するのは、「高度成長」「計画策定」という2つのキーワードです。1960年代の「地域担当職員制度」の展開の背景には、高度成長という外部環境、その影響による自治体そして住民を取り巻く急激な内部環境の変化に対し、その自治体内の地域ごとの住民の手による計画策定によって対応するため、その計画策定を支援するために設置してきたことが想像できます。
ここで一つのポイントが「計画策定」です。本制度の嚆矢と言われるこの両市町に共通しているのは、地域担当職員制度は、いわゆる集落計画、地区別計画と呼ばれる「住民主体による地域ごとの計画」の策定と一緒に生まれてきた経過という点です。
2000年代〜
2つ目のポイントは、2000年代ということから予想できるように、その背景には「地方分権」「合併」があります。その代表として、前山総一郎教授(福山市立大学)は北海道芽室町、東京都奥多摩町などを挙げています。
これらは
「合併により、旧市町村での制度を廃止したが、出先機関職員はおのずと地域担当職員としての役割が期待される」(前山, 2011,p. 54他)ものであり、
「市町村合併後の狭域行政対応を求められる場合(中略)合併後を想定して、あらかじめ現有自治体圏域にあっての有機的な行政対応を設置しようとした」(前山, 2011,p. 54他)と考えられています。
2007年〜2008年頃
そして最新の動きである2007年〜2008年に全国の自治体で爆発的に進んでいるその背景は、「地域担当職員制度が(中略)自治基本条例と連動して設置されていることから生じている」と考えられています。「平成16年度を境に(中略)自治基本条例の制定・施行がふえて」(前山, 2009, p. 110)おり、これを裏付けるものだと考えられています。
実際、前述の前山教授がその策定に携わった八戸市の自治基本条例策定の過程において、行政と地区をつなぐコーディネート機能の一つとして
「地区コミュニティ推進担当職員」「地区コミュニティ推進職員」(前山, 2009, p. 174)という制度が生まれています。
配置の方法
・大きく「全職員配置型(飯田下伊那の市町村はほぼコレ)」と「希望職員配置型(庁内に公募)」に分けることができますね。
・これは、どちらかが優れているということではなく、そもそも設置する目的等に応じて制度設計する必要があります。
・また、基本は地域出身の職員を担当とすることが多いようです。これは、その地域や人的ネットワークを熟知・関係しているからこそ、早期に課題解決に結びつけることを期待しているからです。
・ただし、最近では当町も含めて採用する職員が必ずしも町内出身者とは限りません。そういう点では、出身者を配置する、というルールには限界が来ていると感じます。
成果と問題点
・制度の成果として、「地域担当者制度を導入している市町村では、導入していない市町村に比べて、地域自治組織で特徴的な取組が多く行われている傾向がある」「行政の窓口が一元化されることにより地域自治組織との連携強化が図られる」などになります。
・問題点は、地域自治組織の自主性が低くなるとの回答が多く、その対応策として、行政との役割分担を明確にすることや、住民の意識改革、人材発掘による自発的な取組を促す ことが挙げられています((財)地域活性化センター, 2011, pp. 17–66)。
ここからは僕の考え
・これは自治基本条例の流行とも連動するのですが、一番の課題は最近導入している自治体を見ると、この目的が明確でないまま「カタチとしての制度」導入を行ってしまっているのではないか、と思われることがあります。目的や目標がないまま導入すれば、結局「イベントお手伝い要員」「会議の議事・進行係」で終わってしまうのです。いわゆる「仏作って魂入らず」というヤツです。・また、一番は行政組織としての本気度です。導入するならば、地域から意見や提案が出てきた時に、どのように対応するのか、どのように具体化するのか、また現場に一番近い職員にどれだけ権限(予算も含めて)を与えるのか、それを受けた係長や課長はどのように判断するのか、まさにこれを表面的ではなく組織文化まで高めることが必要だと、痛切に感じています。
・実際、ある町村では職員に予算編成と執行を任せている事例もあると聞いています。このあたりはもう少し調査研究したいと思っています。
・また上記のプロセスを透明にすることも重要です。これが住民参加の基本。僕はこれを「政策意志形成過程のトレーサビリティ(追跡可能性)」と名づけましたが、誰がどの時点で、どういう判断を下したのか、が住民にわかる仕組みづくりのことです。これがわかることで信用が増しますし、公約やマニフェストと呼ばれているものも含めて、どこまで、どういうことをやっているのかが見えるようになります。
・地域担当職員制度においても、これらのプロセスが透明であることが、地域に関わるときには重要な点だと思います。
地域のサスティナビリティ(持続可能性)を補完
・町内会の課題として役員が2年程度でどんどん変わることが指摘されています。組織の持続可能性を考えると、長期的な視野で運営される自治組織から独立した別組織が必要という指摘もあります。先述の「地区別計画」も、その継続性という点では担保する機能を保持していると考えられます。・だからこそ、この「地域担当職員」もその機能を担えないか、と思うわけです。
ボンディング型ソーシャルキャピタルにブリッジ型ソーシャルキャピタルの機能を
・また、地域担当職員は地域とのパイプ役でもありながら、一方では専門知識やそこから生まれている地域外人的ネットワークを地域へ還元する役割を担う必要があります。・地域が成長していくためには前例を踏襲するのではなく、環境変化に常に対応するために動き続ける必要があります。そのためには異質な文化や人間を受け入れ、それを昇華させることが必要です。まさに、ここに行政職員が地域担当職員制度として存在する意味があるのだと感じています。※この辺りは名著『失敗の本質』の中で、日本軍の特徴を示している部分と一緒ですね。
・僕の町の隣村でも、地域担当職員がこのような働きを発揮し、その地域がいきいきとしている事例があります。確かにこれは職員のみの力ではなく、一番は地域住民の方々の底力なのです。
・だからこそ、行政職員はこの底力を埋もれさせてはいけない、どんどん引き出すような仕掛けを行うことが重要なのです。
・地縁を基本とした組織は「結束型の社会関係資本(ボンディング型ソーシャルキャピタル)」と言われます。つながりが濃い一方で、異質なものを排斥する欠点があります。地域担当職員は、この欠点を補うために上記のように働きかけて、濃くつながるのではなく、ゆるく横につながるという「橋渡し型社会関係資本(ブリッジ型ソーシャルキャピタル)」の機能を付け加えていく、という視点が必要ではないでしょうか?
地域担当の限界
・最近は、職員の採用も多様になってきたので、地元出身者を配置する、という点も限界があるように思います。・また、職員が減少傾向にある中で、全ての地域に全ての職員を配置する、というのも今後は現実的ではないでしょう。
チームで解決する
・「地域担当職員を全地域に配置する」、というのが起点ではなく、「地域課題に応じて、地域から要請する」というのが起点という考えはどうでしょう?・ある地域の課題に対して、(縦割りから脱却した)「福祉」「土木」「農政」「コミュニティ」「子育て・教育」「伝統芸能」などの知識をもった職員のチームが解決にあたる、というのが今の僕の理想です。
・職員の異動は時に弊害を生みます。ただし、このようなチームを結成するにあたっては経験者でも良いわけです。1人がマルチタスクを行うのではなく、人が少ない今だからこそ、地域課題に対してチームで解決する、そんな地域担当職員制度はどうでしょうか?
・まあ、本来、これが行政という組織のはずですが、大きな組織で動くとどうしてもスピードが遅くなる。小さな単位で動き、そして決定権限から予算の編成・執行まで、ある程度このチームで完結する、そういうことが可能かどうか、そこがキモだと思います。
・「組織内分権」が良く求められますが、ある部署に分権するのではなく、こういうチームに分権していくという視点が、実は効果的ではないかなあ、と最近思う訳です。なぜって、地域課題が縦割りでなないのだから。
・まだまだ実際に活動できていないので何とも言えませんが、こういうことは将来的には仕掛けたいなあ、と思います。
・実は、この考えはある海外ドラマや映画から得ました。ある課題を解決するために、それぞれの専門分野のメンバーで結成されたチームが出動し、それぞれの得意分野を発揮しながら解決していく。
・実は、地域担当職員がまさに「橋渡し型社会関係資本(ブリッジ型ソーシャルキャピタル)」を体現していく、こういう柔軟なスタイルが効果的のように思います。
「情報発信」からスタート
・そういう僕も何かをしたわけではありません。ただし、すぐにでも出来ることは、このようなブログやSNSで、そういう地域活動や頑張っている職員の皆さんの活動を紹介することを一番に考えています。・これは誰でもできますよね?そういう視点をもって仕事をしていると、なぜか情報や人が集まってきます。不思議なものです。
・また、出した情報に対する反応をきちんと地域にリターンしてあげると、これが地域の誇りにつながるなあ、と感じています。
・人に認められているということはモチベーションを上げることになりますし、何よりも普段地域では「普通」であった出来事が、実は外部からの視点では「特別」の評価を受けることになるからです。
・今、僕たちが苦痛と感じている作業が、外から見れば「素晴らしい地域活動」という事例はたくさんあるのではないか、と普段から思ってます。
・地域担当職員(っていうか役場職員)って、そういう視点をもっていなければならないと思うんです。
・批判するだけなら誰でもできる、簡単。一番の理想は、行動を起こしていること。その行動も、いきなり有名な地域リーダーやカリスマ行政職員のように、何か大きなことが出来るわけでもない。だから、僕の場合は、まずは地域の情報発信。できることからキチンとやる。それが大事なあ、と考えています。
少しだけ、自分に正直に
・以前は、上記のようなことを調査したり、もっと知りたいと思うが故に◯◯学会とか、△△シンポジウムとか、■■研修などに積極的に顔を出したり、最終的には40過ぎて大学院まで。こういう場所は、大切な場所ではあります。普段の生活では得られない気づきと、ネットワーク作りができるから。・大学院では、自分の考えのクセがわかったり、この年齢になって結構怒られたりと、大変勉強になりました。また、モヤモヤしていたものが理論的に体系づけられる、そして何よりもこういう場所に集まる方々の熱意に大変影響を受けました。
・で、ちょっと最近心配しているのが、学会とかシンポジウムとかの類のもの。確かにそういうところでお話しされる方々って素晴らしいとは思うのだけど、少し疑問に感じるようになったんです。
・そういう方々とお話ししてみると、その方々が見ているのって、最初は地域や住民の皆さんだったようなはずなのに、今はどこ見てるんだろう?って。
・なので、最近は本当に尊敬できる方が関わっているようなもの、自分の食指が反応するものしか選択しないようにしています。本来、これが当たり前なのですが、以前よりは少し冷静になったのかもしれません。
・だからこそ、最近は少しだけ自分の正直に、自分が楽しいと思えることを優先するようにしています。音楽を再開したり、バンドを組んだりし始めましたが、実はそういうところで生まれてくる会話のほうが、全く住民を見ていない勉強会や講演会より素晴らしいことで、本当に価値がある会話なんじゃないか、と感じるようになったわけです。
批判する前に、自分はどんな行動を起こしているのか?
・もう一度繰り返しますが、批判するだけなら誰でもできる、簡単。ましてや「勉強会」「講演会」と称した自己満足のイベントを行い、それを基本に批判だけを繰り返しているのが、一番「気の毒だなあ」「時間がもったいないなあ」と思います。
・まあ、これは自己反省でもあるんです。確かにこういう勉強会って必要だとは思うんですけど、これは自己満足なんだ!と割り切っているかどうか?学ぶこと自体は凄い大切なことだし、心の糧にはなりますが、「地域づくり」という側面から考えると「学ぶ」だけでは不十分なのです。
小さくても、できることを
・僕も所詮は一人の人間なので、自分でやれることは「情報発信」と「外部のネットワークづくり」くらい。でも、これをしっかりやってみようと思っています。そういうところから少しでも地域を元気にしたいと、改めて感じるようになったわけです。
・地域担当職員制度も、大上段に構えるのではなくて、もっと小さい部分で「地域担当って何ができるのか?」という部分から考えるのがベースの部分で、しかも重要な気がします。
・換言すれば、一番最初に「何が目的なのか?導入することで、どういう住民の幸せがあるのか?」「そのための小さな一歩って、何なのか?」を地域の皆さんと一緒に話し合うことが重要だと思います。
・換言すれば、一番最初に「何が目的なのか?導入することで、どういう住民の幸せがあるのか?」「そのための小さな一歩って、何なのか?」を地域の皆さんと一緒に話し合うことが重要だと思います。
・お互いできることは限られていますもんね。だからこそ、小さな一歩を一緒に始めることが大切なんだと思います。
参考文献
川口友子, 中塚雅也, 星野敏, 2010. 地域担当職員制度の運用と課題に関する一考察. 農村計画学会誌 29, 263–268.前山総一郎, 2011. 私のコミュニティ論(第7回)21 世紀に求められる「地域を支える人 材としくみ」(1). 「まち むら」.
(財)地域活性化センター, 2011. 『地域自治組織』の現状と課題.
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