はしがき
・「責任を持って、自ら考え行動しよう」ニセコ町のまちづくりの合言葉
・戦後の日本の自治の現場は、市民と行政は対立しお互い都合の良い場面ではもたれあう「お任せ民主主義」が横行
・20世紀後半からは経済悪化、少子高齢化、市民の価値観多様化、日本の社会構造等の大変革が進み、「お任せ民主主義」では太刀打ちできない時代へ
・ニセコ町の具体的実践の柱は「情報の共有」と「参加」。94年町長就任当時は手探り状態でこれを実践。必ずしも町民から歓迎される場面でもなく、職員も疲労感が募り、言うなればうっそうとした森に入っている感覚
・ニセコ町の自治基本条例とは、この森を歩くための絵地図のようなもの。森歩き(まちづくり)の理念や基本的な考え方、そして具体的な方法を定めたもの。
・机上の理論ではなく、「市民の目線・理論・実務」という実践に裏打ちされたものが必要だと考えていた
議案第九号
・「なぜ他に法令があるのに、自治基本条例が必要なのか」「法律とは全国に広く適用するからこそ、地域の特色を反映していない。この条例制定こそがまちづくりの姿勢と町の事務の仕組を明確化するもの。これこそが地方分権。」
・「今までの自治体は首長の個性と指導力でまちづくりをしたが、持続させるためには住民の活力を引き出すような条例が必要。」
・「見直しの期間を4年間としたのは?」「行政は今まで「無謬性むびゅうせい※誤ちを犯さないこと」を重視するあまり、何もやらないでおけばよいということを大切にやってきた。だが今回の条例はこれからは(時代に合わせて)みんなで育てていくという意味も含まれている。」
古参対新参
「地方分権により自治体の自己決定権・自己責任が増大、そのため今まで以上に行政の透明性の確保と政策意思形成過程における住民参加の制度としての仕組が必要。」
「条例で定められていない場合は、トップの入れ替わりにより都合のいいものだけを住民と話し合うといったバランスを欠く場合もある。住民が自分たちの住む土地の自治に参加することが義務であり、権利であることが明確なれば、真の住民自治がスタートする。」
スタートラインへ
「地方自治体から地域政府・自治政府というような捉え方へ」
「これからは、自分の町は自分で守りなさい、という時代になっているということではないか」
そして賛成10、反対5で可決・・・
2 町長誕生
・役場の仕事とは「強いタテ割主義」。不明確なゆえに部署間で仕事等を押し付けあう書類。あいまいでルール化されていない事務手順。給与事務さえも同様。なによりそのような問題点に対して、積極的に解決しようとする姿勢が職場全体に希薄。
・大学の通信教育や専門学校の法律講座で学びながらも「自分の居場所はここではない」と感じる日々。
・いつも痛感したのは町民を置き忘れたままルーティンワーク化し、タコツボ的な視野と発想に流れ勝ちなお役所仕事の限界。
・「ふるさと創生一億円事業」の担当になったこと時に、誰がどのように使い道を決めるのか?という意思決定の方法に興味を持つ。
・これを気に「地域自治力を将来に向けて戦略的に高めていく」という自身への課題に結びつき、ここでやるべきことはたくさんある、と思うようになる。
・プライベートな時間も、先進事例の視察や各種勉強会など、町内外のネットワークへところ構わず参加し「自治体職員はやりがいがある仕事」と確信したのは、入庁から10年たった時。
出会いの季節
・自治体学会などを通じて、故田村明氏、中島興世氏、木佐茂男氏、森啓氏などの多くの教授や職員と出会う。
・現ニセコ町長の片山健也さんとは当時から一緒に参加し、共に語り合う中。
・帯広大会で高橋寛治さんの「役所の殻を破って学びの場を外へ求めていかなければならない。地域学習に取り組み、住民とともにまちづくりのありようを考えていくこと、それが職員研修だ」との主張に大いに感銘を受ける。
・札幌地方自治研究会も同時期に発足。「自治体職員が行政法や地方自治法について、じっくり学びあう場をつくる」目的。
・神原勝教授の言葉
「自治体は首長と自治体職員、住民によって作られ、その三者の関係性を明確にすることが自治を考える上で重要」
「首長や役場が、行政は間違いを犯してはならないということにとらわれて、住民の信託を受けながら地域課題に立ち向かっていかないことは罪悪に等しい」
「実践してみる、うまくいかなければ直していく。そういう姿勢こそ役場には必要なのではないか?」
出馬へ
・対立候補である現職支持が大勢を占める中で、「お茶の間懇談会」を開催。町政や地域課題について気楽に意見交換をしようという趣旨。(片山健也さんも講演会にこられた際に、なるべく円形に座を設置し、車座集会を開催しているとおっしゃっていた。)
・支持を得る、というよりも町政や地域課題について気楽に語り合うという選挙運動。そのなかで述べ800人を超える町民が参加し、その結果を「5つの目標、70の政策」にまとめ告示後の選挙運動の中で提起。
・94年10月16日、逢坂町長誕生。当時、全国最年少35歳の町長。
3 住民自治に取り組む
対話という鍵
・「住民主体のまちづくり」「町民と行政の情報の共有」「行政の透明性の確保」を推進するため、町民との情報のキャッチボールの質や量を高めていくためには、基本は「日常的なコミュニケーション」と位置づける。
・「まちづくりトーク」…5人以上の町民からの申請により町長と直接の懇談
・「まちづくり懇談会」…別名:予算公聴集会。11月に町内13箇所で予算づくりを前提にして町民が地域課題を語り合う場として設定。出た意見は「広報ニセコ」にて共有。
・「まちづくり町民講座」…講師を迎えて町の現況や課題について勉強するもの。主に役場の課長級が講師。1時間説明、1時間懇談。職員研修の意味もある。
・「こんにちは町長室」…町長室に気楽に町民を迎えて親しく懇談するもの。月1回、2時間程度。昼夜交互、1組20分程度。
・町民と出来る限り積極的にキャッチボールし、役場を開いていく。できることからどんどん実践していこう、という逢坂の姿勢。
常識の壁を融かす
・大胆な人事異動。
・「町民総合窓口」の設置。たらい回しの防止。町民の窓口を一つの「課」が担当する。
・「町内政策推進会議」…対象は係長以下の若手職員。特定のプロジェクトや政策課題について関心のある職員が手を挙げ議論に参加。20人〜30人規模。部署、肩書きにこだわらず自由に意見を出し、議題を出した担当者はそれを政策づくりに役立てる。こうした横断的な政策形成の場は、まちづくり基本条例などの土壌となる。
・庁内LANの整備。逢坂は「町長室日記」を開始。毎朝、時事問題や出張先での出来事などを毎日欠かさず電子メールにて職員に発信。
<シュウメモ>
現在でも「おおさか誠二メルマガ(http://www.ohsaka.jp/)で継続中。
研修重視
・一人あたり1〜2万円の研修費が相場の中、一人あたり約15万円の研修費。「役場を支え、地域を支えるのは人だ。学び続けられる体制をつくろう。」
・職場内研修の充実はもちろんのこと、自治大学校、地域リーダー養成塾などの研修、他自治体や企業への派遣などを実施。2年に1度は何らかの研修に職員が参加するという状況。
・交流の重要性。「異質なものと触れ合うことによってこそ、自己が見えてくる。交流とは鏡を見るようなものだ。」
協働への試行
・「もっと知りたいことしの仕事」。町民目線で、町政情報をいかにわかりやすく伝えるか?の一つの形。予算説明書。(経営企画室にあり)ニセコ流の情報共有のシンボル。
・「事業別住民検討会議」…実際の町の事業に住民の声を生かしていく住民参加システム。まちづくりの重要事業について町民誰でもが自由に参加、意見表明できる「公開の場」。ハード、ソフトにかかわらず、事業計画が白紙の状態から住民にまちづくりに参画してもらおうというのが狙い。従来のような行政主導の事業計画づくりを脱して、住民の話し合いで事業計画の熟度を高める目的。
・「一度だけやってみよう、ダメならやり直せばいいんだから。」が逢坂町長の方針。
自治の仕組みづくりへ
・住民参加の成果を感じながらも町民からは疲労感。住民参加を長続きさせるためにもルールが必要。
・アメリカの「情報自由法」がヒント。請求されるまでもなく「自動公開」を義務とし、これが住民負担の軽減を可能にしていた。
・このような動きからまちづくりのルールの重要性=自治基本条例の必要性が見い出されてきた。
自治基本条例プロジェクト
・ニセコ町職員はもとより、逢坂の人脈で集まった町内外の職員、大学教授がニセコの自治基本条例をつくるために結集。通称「自治プロ」。
・法制執務から政策法務・自治体法務(企画と法務が結びついた理想の形)をメンバーは目指し、そして重視。
※ちなみに、この自治プロが全てニセコの自治基本条例を作り、住民参加で作ったわけではない、という批判があるのも事実。ただし後述するように、町民を含めた委員会の設置や懇談会などは数多く行っている。
先行例
・川崎市都市憲章条例案
・逗子市都市憲章条例一試案
・ホームルール・チャーター(アメリカ)
子どもたちの参加の権利
・木佐教授の主張「そもそも自治に関する参政権は胎児の段階から有している、それが人間の成長、発達に従い質・量ともに増大していくというのが自治の現場の目からしても自然なのではないか?」
・「発達に応じて参加資格を拡大するということが、まちづくりへの参加の権利を体系化し実効性を高めていくことに繋がる。自治への参加が選挙など限られたものになると、ある日突然一定年齢に達したことにより参政権が付与されるように考えてしまう。しかしまちづくりへの参加という視点からは、未成年者であってもそれぞれの年齢に応じた方式が考えられるし、まちづくりに関する意見表明権は年齢によって制限を加える理由はない。」
中核部分はなにか
・自治プロが多くの紆余曲折を経ている中でたどり着いた結論は「ニセコ町が実際に取り組んできた先駆的取り組みを継続していける仕組みにするように再考しなければならない」「ニセコが実践したもの、そして今何を目指しているのかを中核に置くようにしよう」
信託のかたち
・町長就任の際に「私は自治を充実させるぞ」と宣誓する条文。自治基本条例は多くの自治体で策定されているが、この信託のかたちをどう担保していくのか、は悩ましい課題。首長のリーダーシップをより発揮させる環境をつくる、と共に、そのリーダーシップを住民自身が統制していく仕組み、をどう創りあげていくのか?これが自治基本条例には求められている。
5 わが町のまちづくりのきまりをつくる
・「自治基本条例をつくりたい」というより「情報共有と住民参加の仕組みをつくり、それをルール化したい」という思い。
・住民からも「首長が変わっても情報共有や参加の取り組みが後退するようなことにならないようにしてほしい」という声。
・広報担当者の本音「議員でもない普通の町民が普段から町の条例づくりのことを気にしていたら、その方が気持ち悪い。何も困ったことが起こらなければ条例について取り立てて関心がわかない、知らないというのは、それはそれで当然のことだ。」いざというとき、町民の権利を保障し、まちづくりの仕組みが停滞しないようにすればそれでいい。
町民を巻き込む
・庁内有志メンバーでニセコ町条例草案バージョンを策定。それに基づき条例づくりに参加してくれる町民を公募。結局5人程度を一本釣りで。
・議員勉強会への参加。ある質問に対しての答えを準備。「条例ができると何が変わるのか?」「何も変わらない、が答え。条例は町民にとっては当たり前の権利の保障(それは町政に参加したり、意見を述べたり、情報を得たりなど)。その権利が侵害されたときに初めて力を発揮するのだから、何も起こらなければ何も変わらない。」
多くの視線で洗っていく
・このように自治プロの案を元にニセコ庁内で草案を策定、されにこれを町民の目線で洗っていく。「何を言っているのかわかるか?」「法律用語だからOKではなく、町民が読んでわかるものにしなければ」
・各種研修会への参加の際にも、自治プロメンバー等が発表。そこでの意見なども反映。
背水の陣
「完全無欠な自治基本条例」ではなく、自治の実践から積み上げる「育てる条例」を目指すという確固とした基本姿勢。
条例の制定
・2000年12月22日、ニセコ町のまちづくり基本条例は可決。
・最後まで苦しめたのは住民投票制度。その焦点は「投票結果の取り扱い」。自治体の意思決定は「首長等の執行機関の権限に属するもの」と「議会の議決に係るもの」に大別。そのため住民投票の結果をただちに自治体の意思とする仕組みは現行法上は困難と考えられる。そのため投票結果に対しては、執行機関、議会とも「投票結果を尊重する」というのが一般的。ただし九州大の木佐教授からは、「町長は町民投票結果の取り扱いをあらかじめ明らかにしなければならない」という新たな着地点が提案。※ニセコの現行条例もこのようになっている。
6 施行、そして町では
・まちづくり基本条例は本来、町民の権利保護や権利実現策を保障するもの。目に見えない条例、これこそが本質。
・ニセコ町役場には、条例を作ったのだから何か目新しい事業を始めなくては、という切迫感は無し。さらには町民全員に条例を十全に理解してもらい、必ず使ってもらおうなどとも考えてはいない。次の課題は、今までに少しずつ積み上げてきた自治の風土をいかに発展的に継続させていくか?ということ。
変わる町職員
・条例ができたことによって、条例に関していい加減な認識で仕事を進めることはできない。それは町民の権利を保護するため、様々な義務が課せられているから。職員によって自治の度合い、町民の参加の度合いに差が生じたり、イベント開催については情報発信手段の活用の仕方や内容・質などでその発信力に差が出る、など、対応の違いが職員個々の能力や判断で生じることは町民にとって大きな問題。
・条例運用に個人差が出ることを解消するため、一定レベル以上の情報発信や住民参加のための具体的手順を整理することが、まず必要。
・チェック機能やマニュアルなども課題だが、そのためにはやはり職員自身の努力が必要。
・フルに自己研鑽し条例の精神に基づくまちづくりを進められる職員をより増やすこと、町長のリーダーシップに負けない強固な職員集団をつくること、そして依然と残る年功序列の公務員組織自体も変えていく必要があると考えられている。
さらに情報共有を進めるために
・「もっとしりたいことしの仕事」は条例にも位置づけられている。課題は読み手(町民)の目線にたった資料作成。都合の良い点ばかりでなく現実の予算数値を的確に解説する努力も必要。紙を媒体とした検索のしやすさも継続して残さなければならない。また多少難しい情報でも読み手自身が問題点を考え、発見し、解決への意思形成ができるようなものにする工夫が必要。情報共有はそもそも「自ら考え行動するための基礎データ」という発想を大切に。住民自身も行政に依存せず、情報共有の仕組みの中で常に受け身にならず勉強し提言する努力を重ねる必要がある。
・まちづくり町民講座では、参加者が1人の時もあれば満員の時も。参加人数は問題ではなく、情報共有の場を持ち続けること、参加のための機会を提供し続けることが主眼。
住民参加の模索と展開
・計画づくりに携わる町職員の裁量によるところも多く、着手から完了まで一貫した事務のルールづくりが必要。
・条例制定においても住民参加が大原則。町議会へ提出される全ての条例案においてまちづくり基本条例に規定する「まちづくりに関する重要な条例」かどうかの判断を個々に行い、住民参加の有無や内容をその提案理由に記載している。議会ではこれを元に条例検討過程での住民参加を確認した上で審議でき、職員も緊張感を持って条例づくりを行うように。
・こども議会、一日町長、子どもまちづくり委員会などを実施。ただし形式的で行政側の自己満足という批判もある。ただしこうした試みを継続しつつ工夫を重ねることが重要。今後参加の方法は町民全体で考えていかなくてはならない。また子どもたちの直球の意見を、町の予算や仕事にどう実際に反映するのか?どう子どもたちの年齢に応じた議論を深めるのかが、次の課題。
町民の目線による評価
・この場合の評価は行政評価ではなく、町民が何らかの形で参加する中で、町の仕事を点検し、評価する仕組みのこと。その一つが補助金等検討委員会。町担当者の出席を求め納得いくまで議論。その結果を予算に反映。評価については行政内部で行う自己満足であってはならないということが注意すべき点。
ニセコの原点は「連携」
・ニセコ町の課題は、裁判外紛争解決(ADR)による第三者の相談機関設置と大学生インターンシップ。この2つを連携という形で解決しようと模索している。
・「小さな町や村ほど、『井の中の蛙』であってはいけない。ニセコ町が今後も成長していくためには、さまざまな連携は欠かせない。」
第Ⅱ部 自治基本条例の論点と展望
7 自治基本条例の意義と必要性
自治基本条例とは何か
1)住民による自治体行政・議会の役割そして住民自身の責務と権利の定義
2)住民と自治体との基本的な関係、すなわち住民から自治体への『信託のかたち』(統治機構)を自治・行政システムとして宣言するもの
市民憲章・都市宣言との違い
・市民憲章の多くは「決まりを守り」という文言がたいていは三箇条目くらいにあって、「上から与えられた決まりを遵守」することが美しい住民像として描かれており、そこには「決まりを自分たち住民がつくる」という住民自治の観点は皆無であること。上から組織的に推進されたもの。
・都市宣言については1)自治基本条例は自治体の住民として、自治すなわち「まちづくりに関する権利」を宣言する。この点で市民憲章がよき地域住民として生活上の遵守すべきことを復唱することとは大きく異なる。2)自治基本条例は、まちづくりの理念を表現するものだが、同時にその理念を支える基本原則を示し、まちづくりの計画などに反映させる仕組みを組み立てようとする。この点は自治体イメージを重点施策から表現しようとする都市宣言とは異なる。
まちづくり条例・行政基本条例・住民参加条例との違い
・まちづくり条例とは「地域の物的環境整備を目的とした条例」と言える。この点から自治体の活動全体に関する基本法を目指す「自治基本条例」とは異なるが、最近ではボーダーレス化が進んでいる。
・行政基本条例とは住民と行政側の行動規範についてのみ扱うもの。
・住民参加条例とは自治体によるまちづくりへの住民参加の手続きの内容、さらには住民のまちづくり活動への係わり合いについて定めたもの。※当町の町民参加条例はもう少し限定的で自治組織加入促進に特化している。ただしこれもボーダーレス化が進んでいる。
なぜ自治基本条例の制定が必要なのか
・国法の限界。全国画一、縦割り、時代遅れ(長い間改正されていないなど)。地域ではそれぞれ特性があるはずなのに国法の仕組みや運用方法が自治体の現場に持ち込まれ役所でのたらいまわしや無駄な事業執行をもたらしている面がある。
・こうした中で、不完全な国法を補完し住民自治・団体自治の確立を図る基本的な法制度を地域固有の事情や政策課題に即して定める必要が出てきた。その頂点に立つ地域の最上位的な規範こそが自治基本条例。
・まちづくり権という考え方→「そのまちのイメージ」「地域の現実・実態」「地域公共的活動主体、とりわけ自治体の組織運営」という3つが構成要素。この権利の一端をあらわすのが大分県日田市が経産相を訴えた事例。
・政策法務の重要性。「自治体がすでにある法体系をもとに、より地域の行政ニーズに即した自主的な法システムを積極的に設計・運用すること」
自治体法の中での位置づけ
・自治基本条例のイメージは、その自治体における自治立法の最高規範的条例である、が条例は法律あるいは法令に違反することができない(憲法第94条)と定められている。が、次の点は主張できる。「自治基本条例が地域において憲法の理念を具体化し、その内容についての立法事実を備えて入れば自治基本条例と異なる明文規定・解釈を有する国の法令は、地方自治の本旨に基づいて限定的に解釈適用されることになる。」この結果、外見的には自治基本条例はあたかも憲法附属法規ないし準憲法として、国の法令の上位に存するかのような装いを呈することになる。
・一般的に同一の法形式の規範の関係を調整する基本原則として「特別法優先の原則」「後法優先の原則」が存在するが、同じ法形式の規範の中にあって他の規範に対して影響力を持つという優越的な効力を認める立法上のルールは存在しない。
・自治基本条例と他の条例との関係は「法律における基本法」と「個別法」との関係が参考になる。国の基本法の中でも教育基本法は準憲法というべきものとして理解されている。教育基本法は他の教育法規に解釈上優先する、という判例もあり、各地域の立法事実やその規定内容によって裏づけが必要だが、自治基本条例と他の条例との間においても援用することは可能。
論点
基本的な考え方
・自治基本条例のあるべき規定内容についての原則は今のところは確立していない、が少なくとも「住民自治の原則を語り、十分な参加制度や行政側の責任を述べる必要がある。何よりも重要なのは条例制定の趣旨の明確化。
・多くの自治体はニセコ町の条例を参考にしているが、今後策定する自治体は「モデル条例をどのように探すか?」が一つの論点となる。
・条例を作る以上は、骨格の思想や体系性に配慮が必要。
・自治基本条例を構想する上で参考にすべき部分が多いものとして「神原試案」がある。
・わかりやすさを求めることも重要だが、定義等で正確性を欠き多義的な解釈をもたらす恐れもある。15歳前後の標準的な児童・生徒に期待される国語力で、意味がわからない用語も法令用語辞典を用いて理解できる程度の条文の水準が目安。
・条例は法規範として定めるものだから、個々の規定については、その裁判規範性(裁判で判決や決定の基準になるかどうか)を吟味する作業を怠ってはいけない。
・自治やまちづくりの定義をどうするか?の問題。ニセコでも多くの議論があったが特段の定義をしていない(ニセコ条例の手引きを参照)
基本的人権の保障のために
・憲法が基本的人権(基本権)のカタログを定めるように、自治基本条例においても住民に保障すべき基本的な権利が構想されてよい。
・(国法を補完する意味で)憲法を地域的にそして直接に補完する自治基本条例に、所有の権利のカタログを設けることは憲法の基本権規定のあり方を国民的に議論していく上でも極めて重要。この場合住民の具体的な定義が問題になる。(外国人は?通勤者は?別荘住居者は?など)
・権利保障→行政需要増加→自治体の行財政負担増加と短慮してはいけない。そもそも個別条例にて基本権を規定してある場合は、自治基本条例にも規定しないほうがおかしい。(環境権、知る権利など)。学説が定まっていない、判例が認めていないという言葉は、基本権を認めない、認めたくない逃げ口上。参考;生野町条例
・抵抗権「国家が人間の尊厳を侵す重大な不法を行った場合は、実定法上の義務を拒否する抵抗行為」を含めることも検討することが課題となっている。
・近年重視されているのは住民の参加権やその前提となる自治体などが保有する諸情報の公開請求権、あるいは住民の情報共有権。そのため自治基本条例制定と並行してより具体的な手法等を定めた住民参加条例制定が検討項目となる。ただし、参加強制を内容としたり民意を装って首長の不当な意向を実現させる条例にならないような配慮が必要。
・また最近では住民投票、およびパブリックコメントが住民参加の特別法的な条例として現れている。
・住民投票条例について。まずは経費について考える必要がある。1回あたりどの程度のコストがかかるか明らかにしておく必要がある。また投票結果が恣意的にならないようにニセコ町では発議も町長のみならず、町長が事前に投票結果をどう扱うか公表する義務を課している。
・パブリックコメントについては、「反復パブリックコメント」が前提。パブコメを頂いた後に行政側の見解を付して再度パブコメを求めること。なおドイツのようにこのパブコメに対して当局がしっかり考慮したかどうかを法的にチェックできるようにすることは今後重要なテーマ。
公共性の実現主体とその責務
・今日、公共的課題を解決する主体は行政のみならず、多くの人々・組織が関係している。
≪レバレッジメモについて≫
≪レバレッジメモについて≫
2 件のコメント:
ご丁寧な書籍紹介を拝読しました。関係者が10年後の今も使っているMLにも貴ブログ記事を紹介しました。私信で連絡を取るにはどうしたらいいのでしょう。
メールアドレス等を教えていただければ嬉しいです。
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