読書メモ『ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学』

これも、ネット上では一時話題になった書籍。今回も読書メモを。




経営学は何を提供するか?


経営学は何を提供できるかというと、それは(1)理論研究から導かれた「真理に近いかもしれない経営法則」と、(2)実証分析などを通じて、その法則が一般に多くの企業・組織・人に当てはまりやすい法則かどうかの検証結果、の二つだけ


トランザクティブ・メモリー


トランザクティブ・メモリーは、世界の組織学習研究ではきわめて重要なコンセプトと位置づけられています。その要点は、組織の学習効果、パフォーマンスを高めるために大事なのは、「組織のメンバー全員が同じことを知っている」ことではなく、「組織のメンバーが『ほかのメンバーの誰が何を知っているのか』を知っておくことである」というものです。英語で言えば、組織に必要なのはWhatではなく、Who knows whatである

組織がトランザクティブ・メモリーを高められるかというと、それは直接交流によってメンバーが顔を突き合わせる組織である、という研究結果も出てきています。すなわち「オープンで社員の直接交流が活発な組織は、組織の記憶力を高められる」ことが、学術的に予見できる

いくらメールなどが発達しても、やっぱり顔を突き合わせて話をする、ということが重要なのですね。タバコ部屋やノミニケーションも、実は大切なのかもしれません。



イノベーション

イノベーションの源泉の一つは「既存の知と、別の既存の知の、新しい組み合わせ」にあります。これは「イノベーションの父」とも呼ばれた経済学者ジョセフ・シュンペーターがNew Combination(新結合)という名で80年以上前から提示している考え

これは既に有名な考え方ですね。



コンピテンシートラップとその対策


企業の知の深化への傾斜は、短期的な効率性という意味ではいいのですが、結果として知の範囲が狭まり、企業の中長期的なイノベーションが停滞するのです。これを「コンピテンシー・トラップ」と呼びます

従って、イノベーションを目指す企業には、コンピテンシー・トラップに陥らないように、「知の深化」を継続しながらも、「知の探索」を推し進める組織体制・ルールづくりが求められます


「知の探索」


革新的なビジネスモデルを生み出す一つの方法は、このように「内容的、地理的、時間的に遠いところから得た知」を、自分のいま持っている知と組み合わせる「知の探索」なのです



組織の中での「知の探索」


タッシュマンとオライリーは、企業が新しいビジネスを試みる(知の探索をする)ことを支える仕組みとして、新規事業担当部署を中心とした「両利きの組織体制」の構築を提案しています

それは、新しい事業を探求する部署には、(1)そのビジネスに必要な機能(例えば開発・生産・営業)をすべて持たせて「独立性」を保たせること、(2)他方でトップレベル(例えば担当役員レベル)では、その新規部署が既存の部署から孤立せずに、両者が互いに知見や資源を活用し合えるよう「統合と交流」を促すこと、が重要であるという主張
上記の点から考えると、ある程度の権限を部署にもたせて、一方では幹部層のクラスではどんどん協議する場を持たせる、というイメージでしょうか?



「コンポーネントな知」と「アーキテクチュラルな知」


多くの場合、企業はなかなか外部の新しいイノベーションに対応できません。
この点を考える上で有用な視点が、組織の知を「コンポーネントな知」と「アーキテクチュラルな知」に区別すること

「コンポーネント(部分的)な知(Component Knowledge)」とは、製品・サービス開発における「特定部分の設計デザイン」についての知(中略)他方で、それらの部品を組み合わせて一つの最終製品にするための知が、「アーキテクチュラルな知(Architectural Knowledge)
こういう視点から、自分の組織の知を、まずは区別することが出発点なのですね〜


「イノベーション」と「創造性」


ここで私が問題提起したいのは、多くの方々が「イノベーション」と「創造性」を、同じ意味合いで使っていることです。実際、「創造的な人=イノベーションを起こせる人」というのが、世間一般のイメージではないでしょう

創造性(クリエイティビティー)から始めましょう。言うまでもなく、これは「新しいアイデアを生み出す力」のことです。では新しいアイデア・知はどうやって生まれるかというと、それは第5章で述べたように、「既存の知」と「別の既存の知」の「新しい組み合わせ」

アイデアは「実現(Implement)」されて、初めて周囲からイノベーティブと評価される可能性が出てきます。すなわち、創造性とはあくまでイノベーションをゴールとするプロセスの通過点に過ぎず、イノベーションという成果を得るには、まずアイデアが「実現」される必要がある

「創造性の欠如の問題」と「創造性から(イノベーションのための)実現への橋渡しの欠如という問題」は、まったくの別物

ここまでの議論をまとめると、日本企業に向けての示唆は三つあると私は考えます。  第一に最も基本的なこととして、「創造性」と「イノベーション」は別ものであることを理解した上で、自社の問題が「創造性の欠如」なのか、「創造性→実現の橋渡しの欠如」なのかを把握することです。もちろん「うちの会社は両方足りない」という場合も多いでしょうが、これまで述べたように、どちらが欠如しているかで、打ち手は全く逆になるのです









人のつながりと「知の探索」


知の探索の手段について、経営学には多くの研究成果があることは第5章で述べました。しかし、そこでは語りきれなかった有用な手段が他にもあります。中でも経営学者が重視している一つが、「人のつながり・人脈」、すなわち人のネットワークです。

「知と知の新しい組み合わせ」すなわち、前々章で述べた知の探策のためには、「幅広い人々からの多様な情報が効率的に流れる」ネットワーク上にいるほうが有利

これまでの経営学の実証研究で、「弱いつながりを多く持つ人は、創造性を高められる」という命題を支持する結果が多く得られています。


ブレストの欠点

「アイデア出しが目的のはずのブレストが、アイデアを出すのに効率が悪い」ことは、「プロダクティビティー・ロス」という矛盾として、経営学や社会心理学では古くから知られてきました

例えば数十人を集めて5人くらいずつの組をつくり、「5人が顔を突き合わせてブレストする組」と「5人が個別にアイデアを出して最後にアイデアを足し合わせる組」に分けて、それぞれから出てきたアイデアを比較します。そしてこれまでの多くの研究で、前者よりも後者のほうが、よりバラエティーに富んだ質の高いアイデアが多く出ることが示されているのです




その理由は?


「他者への気兼ね」(中略)この傾向が特に「権威のある人」がブレストに参加すると顕著になる
第二の理由は、「集団で話すときは思考が止まりがち」なことです。個人でアイデアを考えている限りは、思考はいくらでも飛躍させられます


では、ブレストの効果とは?


「組織(中略)全体の記憶力を高める」

参加メンバーが組織の「価値基準・行動規範」を共有しやすいこと

 このように、ブレストは「その場でアイデアを出す」機能としては実は効率が悪いのですが、他方でブレストの場を超えて、企業全体での学習能力を高める効果がある

「アイデアを出す」のが目的のブレストですが、真の効用はそれ以外のところにあるのです。ブレストをするみなさんは、「アイデア出し」だけにとらわれず、ぜひこういった裏の効能を意識してみてください


他にもダイバーシティに関する最新の研究結果なども紹介されていました。この本を読んで思ったのは、「多様性が必要だからすぐに導入しよう!」「うちの組織にはイノベーションが必要だ!」とすぐに流行りにのって動き出すのではなく、まずは自分の組織の現状をしっかり把握した上で、一つ一つ丁寧に動くことの重要性です。
みなさんの組織はいかがでしょうか?流行りは派手さに飛びついてませんか?
僕も、まずは自分の足元を見ることから始めてみます。





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